バドミントン界のレジェンド、リンダン選手(Lin Dan)をご存知でしょうか?
リンダン選手は、マレーシアのリーチョンウェイ選手(Lee Chong Wei)と並んで、長年バドミントン界を牽引してきた、誰もが認めるレジェンドです。
そんなリンダン選手も、もはや30代中盤になり、若手の台頭もあって、過去と比較すると成績が振るいませんでした。(もちろん今でも国際舞台で戦っているのは十分すごいですけど)
一方で、リーチョンウェイ選手は、現在は病気で一線を退いていますが、紆余曲折を経ながらもトップであり続けました。
2018年頃は、リーチョンウェイ選手の成績の方がリンダン選手よりずいぶん上回っていたのです。
ところが、2019年4月、国際大会の中でも最高レベルのマレーシアオープンで、リンダン選手が息を吹き返し、決勝まで進むという快進撃を見せています。
リンダン選手の快進撃には、以前と比べてある変化があると考えられます。
そんなリンダン選手の変化を、リーチョンウェイ選手の進化と比較しながら、考察していきたいと思います。
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リーチョンウェイ選手は「剛」を極め続けた
リンダン選手の変化を考察する前に、近年のリーチョンウェイ選手の進化について家訓んしておきましょう。
リーチョンウェイ選手は、リンダン選手のライバルとして、長い間世界王者の一角を担い、バドミントン界のレベル向上を牽引してきました。
しかしながら、ビクター・アクセルセン選手など攻撃力の極めて高い若手選手たちが台頭してきたことにより、リーチョンウェイ選手の成績がパッとしない時期が少しありました。
ところが、彼はスキルの向上と肉体的な進化を重ね、2018年には再び世界のトップと言うに相応しい異次元の強さを獲得しました。
以下の動画は、そんな彼の進化を象徴する試合です。
リーチョンウェイ選手のすごいところは、30歳を超えてもなお、ハードヒッターな若手選手たちに負けないくらいに、スピードと攻撃力を高め続けたことです。
言うなれば、リーチョンウェイ選手は、若手の選手たちに負けないくらいの「剛」のプレーを磨き続けていったのです。
その結果として、30代も中盤に差し掛かっても、国際大会のトップとしてあり続けることができたのです。
ところが、リンダン選手の最新の変化は、リーチョンウェイ選手の進化とは、対照的なように見えます。
リンダン選手は「柔」のプレーへのシフトに成功した
リンダン選手と言えば、躍動感のあるジャンプスマッシュや、低い軌道を通るアタックロブなど、全盛期には極めて攻撃的なプレーで、リーチョンウェイ選手をも圧倒していました。
しかしながら、近年では、年齢を重ねてしまったこともあり、単純な攻撃力と、その持続力という点においては、若手選手に劣ってしまっていました。
ところが、今回のマレーシアオープンでは、従来のようなリンダン選手のプレーはあまり見られなくなりました。
ハイクリアや緩いドロップなど、一見して攻撃的ではないように見えるショットが増えています。
それにもかかわらず、リンダン選手は若手選手たちを次々と返り討ちにし、ついに決勝にまで進んでしまいました。
倒した選手の中には、若手の中でもトップクラスの実力を持つ、台湾のチョウティエンチェン選手や、中国のシーユーチ選手もいました。
そんな若手選手たちを、リンダン選手はどのようにして倒していったのかを見ていきたいと思います。
無理のない「柔」な球回し
まず、リンダン選手は、以前のようなハードヒットをあまり多用せず、柔らかいショットをたくさん使うようになりました。
後ろから無理に強打をすることがほとんどありません。王者時代を象徴するジャンプスマッシュもほとんど打っていません。
その代わりに、相手の図上をきちんと抜く高めのクリアや、相手を前におびき出すカットというよりはドロップ気味のショットをよく使うようになりました。
また、前から打つショットも、しっかり相手を後ろまで下げるロブや、ぎりぎり狙いではなくしっかりためをつくってネットに詰められにくいヘアピンなどを主軸に置くようになりました。
決める時も、全力で打ち込むのではなく、拾われてもすぐに次の動きに移れるようなしっかりコースをつくはじくようなショットに切り替えています。
それを象徴するのが、シーユーチ選手から1セット目を奪ったカットスマッシュのようなショットでしょう。(動画の22:08頃からのプレー)
これらの変化により、低いロブに飛びつかれてカウンターを食らったり、強打した後に綺麗にレシーブされて自滅するということが極端に減りました。
このような、「柔」のショットによる組み立てへと移ったことが、リンダン選手に見られる最大の変化と言えるでしょう。
圧倒的に少なくなったミス
続いての変化は、「圧倒的なミスの少なさ」です。
以前は、しっかり打ち込んだスマッシュがサイドアウトになったり、アタックロブがバックアウトになったりと、決めるのも多い反面ミスもそれなりに目立っていました。
ところが、今回のマレーシアオープンでのリンダン選手のプレーは、極端に自分からのミスが減っています。
そのため、若手のスーパーショットを決められる場面も少なくありませんが、それを補って余りあるほど、自分からのミスがないのです。
もともと、中くらいの高さからしっかりつないだり、飛びついてでもつなぐレシーブをしたりすることが得意な選手であったため、やられた方はたまったものではありません。
加えて、ミスの少なさと「柔」のショットへのシフトは、リンダン選手をさらなる高みへと押し上げています。
それは、ファイナルセットへの強さです。
じつは、ここ最近のリンダン選手は、良いプレーをしているにもかかわらず、ファイナルセットまで行ってしまうとほとんど勝つことができていませんでした。
やはり、年齢を重ねて上で強いショットを打ち続けるプレーをしようと思うと、体力面でどうしても若手選手に負けてしまうのです。
ところが、今回のマレーシアオープンでは、ほとんどの試合をファイナルゲームで勝利しています。
これは、ミスのないプレーと、「柔」のプレーで相手を前後左右にしっかり走らせ、体力を奪うことに成功しているのに他ならないと考えられます。
以上のように、リンダン選手は「柔」のプレーと、ミスをおさえる球回しにシフトしたことにより、ファイナルゲームになっても戦える強さをも手に入れることができたのです。
メンタル的変化|いい意味でのあきらめ
さらに、リンダン選手は、メンタル的にも進化を遂げたように見えます。
それは、いい意味での「あきらめ」であると私は考えます。
以前なら、ハードヒッターであった自分を上回る若手選手のスーパーショットを決められると、そのまま流れを持っていかれてしまう場面が少なくありませんでした。
ところが、今回のマレーシアオープンでのリンダン選手は、たとえすごいショットを決められてしまっても、ほとんど動揺を見せません。
スーパーショットの数ではかなわないから、他の部分で勝てばいいという、加齢に伴う状況の変化を受け入れたような態度が見えてきます。
また、いちいち動揺せず次のプレーに気持ちを切り替えている上に、上述のミスをとことん少なくしたプレーが相乗効果を発揮し、相手のペースで一気に点を離されてしまう、という場面がほとんど見られなくなりました。
このように、決められてもしっかり切り替えてより一球一球に集中できるようになったというメンタル的な変化が、リンダン選手のプレーに安定感をもたらすようになったのです。
もちろん、変わらないリンダン選手らしさもある
以上のように、「柔」な球回しと、圧倒的なミスの少なさ、自己受容というメンタル的変化により、リンダン選手はこれまでとは異なる形で再び勝利をもぎ取れるようになったと私は考えています。
しかしながら、リンダン選手の持つ強みで、変わらない部分ももちろんあります。
その一つが、世界王者であり続けるために最も役立ってきた、「勝負強さ」でしょう。
今回のマレーシアオープンでも、チョウティエンチェン選手との死闘において、1セットを取られ、2セット目12-19とリンダン選手にとって後がない状況がありました。
ところが、リンダン選手は、その世界一の勝負強さを存分に発揮して、そこから1点も失うことなく第2セットをチョウ選手から奪ったのです。
このように、周囲のレベルや自身の肉体の変化に応じたプレースタイルやメンタルの変化に、これまで培ってきた勝負強さなどを加えて、リンダン選手は再び世界トップクラスのプレーヤーとしてコートに舞い戻ってきてくれました。
マレーシアオープンの決勝や、その後に続く試合でリンダン選手がどのような成績を残すかは未知数ですが、これからもおじさんになったレジェンドの活躍に目が離せません。
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