【音名と階名の違い】
音名とは、音の「高さ」に基づいて各音に名前をつけたものである一方で、階名とは、主音に対する「機能」に基づいて各音に名前をつけたものである。
音名の「ドレミファソラシド」の位置は変わらないが、階名の「ドレミファソラシド」の位置は主音との距離によって決まるものであり、主音の移動に伴って変化する。
楽典などでしばしば登場する言葉に、「音名」と「階名」があります。
「音名」については理解しやすいと思いますが、「階名」は具体的にどのようなものなのかがイメージしにくいものです。
そこで、本記事では、「階名」とはどのようなものであるのかを、音名と比較しながら確認していきます。
目次【押すと移動】
音名とは
音名とは、音の「高さ」に名前をつけたものです。
「ラ」の音を440Hz(ヘルツ)とし、1オクターブ下のラは220Hz、1オクターブ上のラは880Hzと定められています。
これは、振動数(Hz)が倍になると、高さの異なる同じ音に聞こえるからです。
そして、音楽の世界では、1オクターブを等間隔に分けた(ように聞こえる)12の音に、名前がつけられています。これらの高さが異なる12の音につけられた名前を、「音名」といいます。
音名は各国によって呼び方が異なり、私たちにとって身近な「ド ド♯(レ♭) レ レ♯(ミ♭) ミ ファ ファ(ソ♭) ソ ソ(ラ♭) ラ ラ(シ♭) シ」の音名は、イタリア語の音名です。
各国の音名の呼び方の違いなど、音名について詳しく知りたい方は、こちらをご参照ください。
階名とは
階名とは、主音との関係でみた音の「機能」に着目した音の名称のことです。主音の位置が変われば、「ドレミファソラシド」の位置も変わります。
階名は、主音を「ド」とし、その音から全音進んだものを「レ」、半音進んだものを「ミ」・・・のように、主音からどのくらい進んだかでその音の呼び方が決まります。
したがって、主音の位置が変われば、「ド」の位置も変化します。
その理由は、階名が、ある音が主音に対して持つ「機能」に基づいてつけられる名称だからです。
たとえば、主音から 全音3つ分+半音1つ分 進んだ音のことを、「属音」と呼びます。主音が何であれ、「属音」は主音と最もよく調和する音の1つです。
そして、階名では、ある主音に対して「属音」の関係にある音のことを「ソ」と呼ぶのです。
同様に、主音から 全音5つ分+半音1 つ分 進んだ音のことを「導音」と呼びます。導音は、主音に向かう性質がある、すなわち、主音の前に登場する音である可能性が高い音です。
そして、階名では、ある主音に対して「導音」の関係にある音のことを「シ」と呼びます。
この時、階名は主音との距離で決まるので、絶対的な音の高さとは関係がありません。そのため、その音の音名が「レ」であろうと「ラ」であろうと、主音に対して「属音」であれば「ソ」と呼び、「導音」であれば「シ」と呼びます。
階名についてより詳しく知りたい方は、こちらの記事をご参照ください。
https://yamahacantabile.com/syllable/
次章では、以下の項目について確認していきましょう。
- 音名と階名は具体的にどう違うのか
- 具体例でみる音名と階名
音名と階名の違い
音名と階名の意味について確認したので、続いては、この2つが具体的にどのように違うのかを見ていきましょう。
音名とは、音楽という世界の中で共通に定められた音の高さに対してつけられた名前であることを確認しました。絶対的な音の高さを表すものであるため、たとえば、音名の「ド」はたった1つのしかありません。
音名で「ド」といえば、261.63Hzの高さの音(もしくはその2の倍数の高さの音)しかありません。ましてや、「ド」の位置が移動するなどということは起こり得ないのです。
一方で、階名とは、主音に対する音の「機能」を意識するための音の呼び方を指すものでした。主音の位置が変われば、「ドレミファソラシド」の位置も変わります。
階名を用いる場合には、その音の高さは名称とは関係ありません。主音が変化すれば、どの位置も移動するのです。
これらを踏まえて、音名と階名の違いを整理すると、以下の2つに集約できます。
- ある音につけられた名称が、音の「高さ」に基づくものか(音名)/ 主音に対する「機能」に基づくものか(階名)
- 「ド」の位置が、固定されているか(音名)/ 移動するか(階名)
具体例で見る音名と階名
以上のポイントを踏まえたうえで、音名と階名で見た場合に音が具体的にどのように異なるのかを、事例で確認していきましょう。
以下は、ハ長調の音階(音名「ド」を主音とした長音階)です。
※「ハ長調」や「長音階」の意味がよくわからない方は、とりあえず主音から「全音・全音・半音・全音・全音・全音・半音」ずつ進んだものを並べたものだと思ってください。
これを音名で表すと、「ドレミファソラシド」です。鍵盤で表すと、以下のようになります。
※青色の弧は「全音」を、赤色の弧は「半音」を表します。
一方で、主音が「ド」の場合には、階名も同じ音名の「ドレミファソラシド」と一致します。
では、続いて主音を音名「レ」に移した、ニ長調の音階(音名「レ」を主音とした長音階)の場合を見てみましょう。
この音階を音名にした場合、各音を「レミファ♯ソラシド♯レ」と呼びます。鍵盤図で表すと、以下の通りです。
ところが、これを階名にした場合、主音が音名の「ド」から「レ」に移るのに伴って、(階名の)「ド」の位置が移動します。図にすると、以下のようになります。
ニ長調の音階は、音名では「レミファ♯ソラシド♯レ」と呼びますが、階名では、音名の「レ」の位置から「ドレミファソラシド」の音階をつくることになるのです。
先ほど、階名では「ド」が移動すると説明したのは、以上のようなことが起こっているからなのです。
このような理由から、ソルフェージュという音楽の基礎トレーニングでは音を声に出して歌いますが、階名に基づいて歌う方法を「移動ド」または「移動ド唱法」と呼びます。
一方で、音名に基づいた「ド」が移動しない歌い方は、「固定ド」または「固定ド唱法」と呼ばれ、「移動ド唱法」とは明確に区別されています。
もう1つ、今度は音階に♭が出てくるへ長調(=「ファ」を主音とした長音階)の例も確認しておきましょう。
この音階を音名にした場合、各音を「ファソラシ♭ドレミファ」と呼びます。鍵盤図で表すと、以下の通りです。
これを同様に階名にした場合、主音が音名の「ファ」であるため、(階名の)「ド」の位置が音名の「ファ」の位置まで移動します。図にすると、以下のようになります。
へ長調の音階は、音名では「ファソラシ♭ドレミファ」と呼びますが、階名では、音名の「ファ」の位置から「ドレミファソラシド」の音階をつくります。
音名で見たときには、「ファ」を主音とすると、下属音が「シ」であり、属音が「ド」、導音が「ミ」に当たります。
しかしながら、階名ははいつでも、「ファ」が「下属音」、「ソ」が「属音」、「シ」が「導音」であることをそれぞれ表します。
つまり、それぞれの音を階名で表すことで、その音が主音に対してどのような機能を持っているのかが、容易に把握できるようになるのです。
音楽では、レベルが上がるほど、調和する音の組み合わせや音の流れなどを意識しながら演奏したり作曲したりできるようになることが不可欠になってきます。
音の高さを表す「音名」は、音感を鍛えるうえで欠かせない存在ですが、それだけでは十分ではありません。音感だけでなく、「階名」やその根本にある音の「機能」に対する意識を高めていくことで、より高いレベルの音楽を身につけていきましょう。
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