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「平均律クラヴィーア」(バッハ)の音律は?|平均律の訳は妥当か?

平均律クラヴィーア音律のイメージ画像

J.S.バッハが鍵盤楽器のために書いた作品集「平均律クラヴィーア曲集」は、24すべての調で作曲された前奏曲とフーガで構成されています。

平均律クラヴィーア曲集には「平均律」という日本語訳があてがわれていますが、ドイツ語の原題は「Das Wohltemperirte Clavier」です。

これは直訳すると「良く調整されたクラヴィーア(鍵盤楽器)」という意味であり、「平均律」とは一言も言っていません。

平均律というのは現代における一般的な調律法ですが、なぜここで「平均律」という言葉が出てきたのでしょうか。

そして、実際にはどのような音律・調律法で演奏されたのでしょうか。

本記事では、この「平均律クラヴィーア曲集」の音律について考察していきます。

平均律とは・純正律とは

平均律とは、西洋音楽の1オクターブ内の12種類の音が等間隔に並ぶように音の高さを決定する方法のことです

一見すると万能に思える平均律で数が、そこにはある問題点が隠されています。

西洋の音階は、ギリシャの哲学者ピタゴラスが考案したとされる完全5度を基本に、それを順次積み重ねることにより1オクターブ内の12の半音を導き出す調律を基本としています。

完全5度(振動比2:3)を積み重ねて、ド・ソ・レ・ラ・ミ・シ・#ファ・#ド・#ソ・#レ(=♭ミ)・#ラ(=♭シ)・#ミ(=ファ)・#シ(=ド)といくと、完全5度を12回重ねて到達する音は、最初の音のオクターブ上(振動比1:2)ではなく、少し高くなってしまうのです。

そこで1オクターブに音を収め、その中でよく使われる音を純正にする分、そのしわ寄せとしてあまり使わない音に「ウルフ」という歪み(不快な響き)を割り当てました。これを「ピタゴラス音律」と言います。

ただし、ピタゴラス音律の場合、完全5度は美しく響くのですが3度の響きが良くないため、長3度の振動比を4:5にして濁りのない純正3度を加えたものを「純正律」と言います。

平均律はその歪みを平等に割り振られている…ということは、どの音の響きも微妙に濁っているということなのです

純正律と平均律については、以下の記事でさらに詳しく解説していますので、ご参照ください。

純正律と平均律のイメージ画像
純正律・平均律とは|音律と音の高さはいかにして決まるのか 【純正律】 純正律とは、ある主音(=楽曲の中心となる音)を中心として、その主音と他の音が最も協和するように音の高さを決定する方...

純正律の問題点

純正律とは、ある主音(=楽曲の中心となる音)を中心として、その主音と他の音が最も協和するように音の高さを決定する方法のことです

純正律には、調が一定であるとき、複数の音の協和度が極めて高くなるという利点があります。

純正律は、転調や派生音がない限りは理想的なのですが、特定の調しか演奏できないという制約が生じます

歌や弦楽器の場合は臨機応変に音高(ピッチ)を調整できるので問題ないでしょう。

しかしながら、決まったピッチ(=音の高さ)を鍵盤に割り振らなければならない鍵盤楽器の場合はそういうわけにもいきません。

どこで折り合いをつけるか、ということで新たな音律が模索されます。

中全音律(ミーントーン)/その他の古典調律(不均等律)

●中全音律(ミーントーン)
三―ントンとは、純正な長3度を基本として5度の響きを犠牲にした調律法です。長3度音程の中間に全音が位置するように調律されるので、中全音律と呼ばれます。

このミーントーンは、モーツァルトも好んでいたと言われています。

●キルンベルガー第三調律法
キルンバルガー(1721~1783)はバッハの弟子で作曲家です。

彼の名前を冠したこの調律法は、ピタゴラス音律とミーントーンを組み合わせたものです。

キルンベルガー第三調律法では、4か所を比較的狭い5度に定め、それ以外を純正5度にする調律法です

また、ド⇔ミの部分が純正3度になることも大きな特徴です。3度が純正に響く調と、5度が純正に響く調を併せ持つことでいろいろな調ごとに独特の味わいが生まれます。

中全律では対応できなかった調でも対応できるというメリットがあります。

●ヴェルクマイスター第三調律法
ヴェルクマイスター(1645~1706)はドイツのオルガン奏者です。

ヴェルクマイスター第三調律法では、キルンベルガーでラ⇔レに置かれていた狭い5度をシ⇔#ファに移動しています

そして、純正3度が存在しないので、より平坦な調律となっています。

●ヴァロッティ調律法
ヴァロッティ(1697~1780)はイタリアのオルガニスト、作曲家であり、音楽理論家です。

彼の名前を冠したヴァロッティ調律法は、実際に彼が提案したものから少し変えられて使用されています。

純正5度を6箇所設定し、残り6箇所を均等に狭い5度にしたものです

●ヤング第二調律法
ヤング(1773~1829)はイギリスの物理学者です。

ヤング第二調律法はヴァロッティと構成は同じですが、設定箇所がずらしてあります

ヤングの配置では、ファ⇔ドに純正5度が来るので、キルンベルガーやヴェルクマイスターの響きに近くなります。

 

他にもさまざまな調律法がありますが、よく使用されるものをピックアップしました。

いずれの調律法も、なるべく音程の純正さを保ちながら使用する調性の自由度を広げることを目的に、考案されています。

バッハの求める「良く調整されたクラヴィーア(Das Wohltemperirte Clavier)」とは?

実際にバッハがどのような調律法を用いていたかは正確にはわかりませんが、音楽批評家マールプルク(1718~1795)によれば、キルンベルガーは「バッハは長3度をすべて鋭くするように強く要求した」と語ったとされています。

「鋭くする」とはすなわち、純正な響きからずらしてうなりを生じさせるということを意味します。

このことを根拠にマールプルクは平均律を主張しました。

しかしながら、実は長3度が純正ではない調律はヴェルクマイスター、ヴァロッティなど、他にいくつも当てはまります。

ヴェルクマイスターは自身の考案した調律法を「Wohltemperierung(巧みな調律)」と名付けていたことから、バッハもこの言葉を念頭に置いていたのではないでしょうか

したがって、「平均律クラヴィーア曲集」の音律は、ヴェルクマイスターの調律法か、それに近いものだったと考えられます。

それで24の全調を演奏できるのかと言えば、充分に可能であると言えます。

加えて、チェンバロは楽器の特性上、途中で調律をすることが必要ですから、その時に多少音律を変更すれば対応できるからです。

実際のところ、平均律を鍵盤楽器で採用できる技術が確立するのは19世紀後半、つまりドビュッシーの時代になってから、と言われています

これはすなわち、ショパンやリストが活躍していた頃でさえ、現在使われているような平均律ではなかったことを意味します。

平均律クラヴィーアの表紙に音律のヒントが?!

「平均律クラヴィーア曲集」の自筆譜の表紙には、たくさんのらせん模様が描かれています。

そして、このらせん模様の渦巻きの数が調律法を暗示しているのではないかという新たな説が浮上しています。

今のところはこじつけのような気もしなくはないですが、もしかしたら新しい発見につながるかもしれません。

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