音楽

ソナタ形式とは|三部構成と調性の変化が織りなす音のストーリー

ソナタ形式のイメージ画像

今回のテーマは、「ソナタ形式」です。

ソナタ形式を調べると、「ソナタの第一楽章に見られる形式」「提示部・展開部・再現部の3つのパートから成る」といった説明がなされます。

しかしながら、ソナタ形式を調べていて、「ソナタ形式の形はなんとなくわかったけど、それに何の意味があるの?」「ソナタ形式の形だけ説明されても、いまいち理解できない」と思ったことはありませんか?

私も、音楽を学ぶようになって「ソナタ形式とは何か?」という疑問にぶつかりましたが、長い間その本質が何なのかをつかむことができませんでした。

しかしながら、様々な角度からソナタ形式について考察してみることで、ようやく「ソナタ形式とは何か」という問いに自分なりの答えを出すことができました。

結論だけを端的に述べるとすれば、ソナタ形式とは、「12種類の高さの音を組合せて音楽にストーリーを持たせるための型のこと」です。

映像作品や小説などに様々なストーリーがあるように、西洋音楽にも元気の出るもの、宗教的なもの、悲惨なものなど、様々な音によるストーリーがあります。

これらのドラマは、どのような「型」によって生み出されているのでしょうか。

本記事によって、音楽にストーリー性を持たせる「ソナタ形式」とはどのようなものであるのかを理解していただけるよう、心を込めて書いていきたいと思います

ソナタとソナタ形式

「ソナタ形式」を理解するために、まずは「ソナタ」とは何を指しているのかを見ておきましょう。

ソナタと対をなす言葉として、「カンタータ」という言葉があります。カンタータは、「声楽曲」を意味する言葉です。

一方で、ソナタは元々は単に「器楽曲」を意味する言葉でした。つまり、ソナタとは元々、「声楽曲」ではなく「器楽曲」であることを指す言葉だったのです。

それからソナタは歴史を重ね、ある決まった構成方法が共通してみられるようになりました。それが、「ソナタ形式」だったのです。

先人たちの様々な試行錯誤の結果、ソナタは「ソナタ形式」を第一楽章に持つ、複数の楽章から成る器楽曲のことを指すようになりました

ソナタ形式が楽曲の中で果たす役割とは

以上簡単に見てきたように、ソナタは単なる器楽曲を指すものから進化を重ね、第一楽章にソナタ形式を持つ複数楽章の器楽曲を表すようになりました。

ここで問題となるのは、ソナタの第一楽章を担う「ソナタ形式」とは、具体的にどのような役割を果たすものであるのかということです。

後ほど詳しくご紹介しますが、ソナタ形式は、提示部・展開部・再現部 という「三部構成」になっています。そして、三部構成の移り変わりの中で、音楽の「調性の変化」が次々に見られます。

実は、ソナタ形式のポイントは、この「三部構成」と「調性の変化」にあるのです

映画や小説などと同じように、器楽曲であるソナタにもストーリーがあります。

そして、音楽にストーリー性を持たせるための「型」が、ソナタ形式です。さらに、ソナタ形式によるストーリー作りの鍵を握る要素が「三部構成」と「調性の変化」なのです

ソナタ形式と映画の構成の共通点

「三幕構成」という言葉を聞いたことがありますでしょうか?

「三幕構成」とは、映画などでストーリーを組み立てる際の基本となる構成方法のことです。

映画のストーリーがこの「三幕構成」によってつくられるように、音楽ではソナタ形式という三部構成によって、歌詞のない器楽曲にストーリーが生まれるのです

三幕構成では、「設定」「対立」「解決」という三つの部分で構成することによって、物語にドラマを生み出します。(「解決」の後にはしばしば「結末」が続きます。)

第一幕:設定

第一幕では、まず主人公とその周りの状況を設定します。【設定】

具体的には、登場人物は誰で、どこを舞台にしていて、どのような歴史を持ち、どのような文脈の中に身を置くのかといった、主人公に関する詳細を先に明らかにしておくことが行われます。

先にどのようなテーマを扱うのかをできるだけ明確にしておくことで、その後の対立や解決に、観客をスムーズに引き込むことができるようになります。

第二幕:対立

続く第二幕では、主人公とその周りで、何らかの問題や葛藤が発生します。【対立】

ストーリーのおもしろさのカギを握るのは、この「対立」と、その「解決」にあります。

何の波風も立たない状況を見ていても、視聴者にとっては何の面白味もありません。

ところが、大きな問題や対立が発生して緊張が高まり、その緊張状態を乗り越えていくプロセスこそが、見ていておもしろいストーリーを生み出すのです。

第三幕:解決

最後の第三幕では、主人公が第二幕で生じた対立に立ち向かい乗り越えていく過程が描かれ、対立が解消されます。【解決】

設定から対立、そして解決という流れを描くことによって生じるのは、「変化」です。

映画で言えば、主人公が強大な敵を倒したり、大好きな人と結ばれたり、その過程で精神的に大きく成長したりします。

視聴者は、対立という大きな山場でストーリーに引き込まれ、それを乗り越えたことによって生じる変化に対して、何らかの感情を抱くのです。

また、第ニ幕で緊張状態が生じ、その状態が解消されたからこそ、「結末」が得られます。

何も問題の生じない平穏な状態であれば、そもそも何も始まらないため、終わりも何もないからです。

ソナタ形式は音楽における三幕構成

このように、三幕構成は、視聴者にきちんと状況を認識させたのち、何らかの緊張状態の発生から解消までとそれに伴う変化を描くことで、視聴者を物語に引き込み楽しませるための構成方法です。

そして、ソナタ形式は、提示部・展開部・再現部の3つの主要な部分に終結部という締めの部分を加えた構成が一般的ですが、この構成が三幕構成の展開と大きく重なっているのです。

この時、ソナタ形式と三幕構成を比較すると、「提示部」は設定と、「展開部」は対立と、「再現部」は解決と、終結部はエンディングとそれぞれ同じ役割を果たしています

つまり、ソナタ形式は、映画の三幕構成と同じ構成方法であると言えるのです。

ソナタ形式の展開は「調性の変化」によってつくられる

ソナタ形式では、設定→対立→解決という流れの中で生じる「変化」が重要な要素であると述べました。

たとえば、映画などであれば、仲間に裏切られたり、強大な敵が出てきたり、といったわかりやすい変化により、物語は盛り上がりを見せます。

しかしながら、ソナタ形式における「変化」は、映画などのようにわかりやすい変化ではありません。

ソナタ形式における変化とは、一体どのような形で現われるのでしょうか。

言い換えれば、西洋音楽における「変化」とは、どのような方法で表現されるのでしょうか?

調性の変化が展開をつくる

西洋音楽におけるストーリー展開の鍵は、楽曲における「調性の変化」にあります

では、「調性」とは具体的に何を指しているのでしょうか?Oxford Dictionariesの説明がわかりやすいので、以下に引用します。

Tonality-The character of a piece of music as determined by the key in which it is played or the relations between the notes of a scale or key.
Oxford Dictionaries (https://en.oxforddictionaries.com/definition/tonality) より。

日本語に訳すと、調性とは、「楽曲を司る調、もしくは、音階や調の音同士の関係 によって決定される音楽作品の性格」といった意味になります。

言い換えると、「調によってつくられる楽曲の雰囲気」といったところでしょうか。

つまり、ソナタ形式においては、調の変化とそれに伴う雰囲気の変化が、楽曲の展開を大きく変化させている、ということです

調とは何か

ここで、「調」について簡単に確認しておきましょう。

西洋音楽の楽曲や楽章などの音楽的なまとまりには、主役となる音があります。この、楽曲や楽章の主役となる音のことを、「主音」と呼びます。

西洋音楽では、「ド・ド♯(レ♭)・レ・レ♯(ミ♭)・ミ・ファ・ファ♯(ソ♭)・ソ・ソ♯(ラ♭)・ラ・ラ♯(シ♭)・シ」の12種類の高さの音が用いられます。

しかしながら、楽曲や楽章では、全ての種類の音が均等に用いられるわけではなく、主音と親和性の高い音を中心として曲が構成されます。

基本的には、主音と、主音と親和性の高い6つの音の合計7つの音がよく用いられ、それらを低い順に並べたものを「(全)音階」と呼びます。

音階には、明るい雰囲気を持つ並びである「長音階」と、悲しい雰囲気を持つ並びである「短音階」の2種類があります。

そして、調とは、楽曲や楽章などの主音が何の音であり、長音階と短音階のどちらが用いられているのかを表す言葉です。

たとえば、「ハ長調」という調の、「ハ」は日本語音名で「ド」が主音であることをあらわし、また、「長」が長音階であることを表しています。

調性の変化は雰囲気の変化

まとめると、調とは、主音と、主音と相性のいい音(音階)がつくり出す雰囲気を表す言葉です。

そして、調が変化するということは、主音が変化するということです。主音が変化するということは、それぞれの都の役割も変化します。

そして何より、調が変化することは、調性の変化、すなわち、楽曲の雰囲気が変化することを意味します。

ところで、調には複数の種類がありますが、それぞれに相性があります。

調同士の関係が近くそれぞれの間を行き来しやすいもの(近親調)もあれば、調同士の関係が遠く直接行き来するには不自然なもの(遠隔調)もあるのです。

ソナタ形式においては、ある調から関係の近い調への変化に始まり、そこから様々な調に行ったり来たりすることによって、雰囲気がどんどん変化していきます

このように、調が変化することによる雰囲気(調性)の変化が、ソナタという物語に大きな変化を生み出しているのです。

つまり、ソナタの醍醐味の1つは、調性の変化に伴うストーリーの変化を楽しむことにあると言えるでしょう。

ソナタ形式の構成|三幕構成と調性の変化の視点から

続いては、いよいよソナタ形式の三部構成の内容について、ここまで確認してきた「三幕構成」と「調性の変化」という観点から見ていきましょう。

最初に、ソナタ形式の一般的な構成を示しておきます。

【 ソナタ形式の一般的な構成 】
提示部(第一部)
第1主題―主調
移行部
第2主題―属調 / 下属調 など
コデッタ(小結部)
展開部(第二部)
第1・第2主題とその動機の展開
再現部(第三部)
第1主題―主調
移行部
第2主題―主調または同主調・平行調
コデッタ(小結部)
コーダ

概観してみると、ソナタ形式は「提示部」「展開部」「再現部」の三部構成になっています。そして、多くの場合、最後にエンディングに当たる「コーダ」を伴います

ソナタ形式の構成を確認したところで、各部がそれぞれどのような特徴を持っているのかを確認していきましょう。

提示部|音楽のテーマを設定する

ソナタ形式の三部構成の第一部は、「提示部」です

提示部は、三幕構成で言うところの「設定」です。提示部では、映画で言うところの主人公とヒロインのような、2種類の主要な旋律が提示されます。

物語で言う主人公に当たるのが、「第一主題」です。たとえば、有名なベートーヴェンの「運命」の「ジャジャジャジャーン」がこの第一主題に当たります。

この第一主題の調が、楽曲全体のメインの調としての役割を果たします。このような調のことを、「主調」と呼びます。

第一主題に続いて、楽曲のもう1つの主要な登場人物である、「第二主題」が登場します。

第一主題から第二主題へと移行するの伴って、楽曲の「調」が変化します。これを「転調」と呼びます。

一般的には、楽曲の主調が長調である場合には「属調」に、短調である場合には「平行調」に転調する場合が多いです。(つまり、比較的相性の良い近い調に移行するということです。)

そして、第一主題と第二主題は、一般的に対比的な性格を持つことが多いです。

たとえば、第一主題が激しいものであれば第二主題は穏やかなものに、第一主題が明るいものであれば第二主題は悲しげなものに、といった具合です。

つまり、提示部とは、楽曲において中心的役割を果たす、性格の異なる2人の主要な登場人物(=第一主題・第二主題)を観客に説明(提示)する部分なのです

また、第一主題と第二主題の間には、「移行部」という部分が、第二主題の後には「コデッタ」という部分が置かれることが多いです。

「移行部」は、第一主題から第二主題への転調を自然に行うための、間奏のような役目を果たす部分です。

「コデッタ」は、小さいコーダのことを指しています。

「コーダ」とは、日本語では終結部などと訳される言葉ですが、楽曲などの最終的な終わりを表す独立した部分のことです。

そして、「コデッタ」は、コーダと比較して小さな終わりを表す部分であり、音楽に小休止を入れるような役割を果たします。

コデッタとコーダの関係は、日本語で言うところの句点(。)と読点(、)のような関係と考えるとよいでしょう。

展開部|変化によって緊張が高まる

ソナタ形式の三部構成の第二部は、「展開部」です

展開部は、三幕構成で言うところの「対立」に当たります。つまり、最も変化が大きく、最も緊張が生まれる部分でもあります。

展開部に関しては、島岡譲「和声と楽式のアナリーゼ」(音楽之友社)の説明がわかりやすいので、以下に引用します。

 …前略…ソナタ形式では、第2部(中間部)はとくに展開部と呼ばれ、提示部の中の素材を巧妙に活用しながら組み立てられる。
和声や旋律は安定した性格をもたず、たえず転調し、絶えず動揺しつつ、前進を続けていく。このような「不安定な動的な性格」が展開部の特徴であり、この点、展開部は、比較的安定した静的な提示部と、きわ立ったコントラストを形づくる。
(島岡譲「和声と楽式のアナリーゼ」(音楽之友社)1964、P.45より抜粋)

以上をヒントに、展開部とは、以下のような特徴を持っていると言えます。

①提示部に出てきた旋律的素材を活用し組み合わせながら展開される
※新しい素材が用いられることもある

②繰り返される転調により不安定で変化が激しい

③動的な展開部は比較的静的な提示部とコントラストをつくる

つまり、展開部は転調が繰り返されることによって高い緊張状態が生じる、ソナタ形式の最も変化の激しい部分なのです

三幕構成の「対立」と同じで、大きな変化に伴う緊張により、ソナタ形式という物語が盛り上がりを見せる部分でもあります。

再現部|緊張が解消され安定した状態へ

ソナタ形式の三部構成の第三部は、「再現部」です

再現部は、三幕構成で言うところの「解決」に当たります。

提示部で示された主題が展開部で緊張を高め、再現部でそれらがまとめられ、収束していきます。

再現部でも、一般的には提示部と同様、第一主題と第二主題の2つの主題が現れます。

しかしながら、提示部との違いは、提示部の第一主題と第二主題と比較して、より緊張関係の薄い調が並べられるということです。

基本的には、第一主題には主調、第二主題には主調、もしくは、同主調か平行調が用いられます。

これはつまり、再現部では緊張関係の和らいだ安定した状態に落ち着く、ということを意味しています。

実は、再現部では、提示部の第一主題と第二主題との対立と、提示部と再現部との対立という、2つの対立がうまくまとめ上げられ、安定した心地よい状態へと収束していくのです

物語は、緊張が高まったままでは終わることができません。

高まった緊張が解決され、安定した状態を取り戻すことで、やっとエンディングを迎えることができるのです。

つまるところ、再現部とは、緊張が高まったソナタ形式という物語にオチをつける部分であると言えます。

加えて、再現部にも、提示部と同様に、第一主題から第二主題への橋渡しをする「移行部」と、読点(、)の役割を果たす「コデッタ」がしばしば伴います。

コーダ(終結部)|楽曲を歯切れよくまとめ上げる

ソナタ形式の主役は、「提示部」「展開部」「再現部」の3つのパートですが、それらに加えて、多くの場合、最後に「コーダ」(=終結部)が置かれます

先述した通り、コデッタが読点(、)で物語の途中に一区切り入れるものであるとするならば、コーダは物語に終止符を打つ、句点(。)のような役割を果たす部分です

言い換えると、コーダは、再現部によってもたらされた安定した状態の先にあるエンディングです。

ソナタ形式は長大な作品であるものが多く、エンディングもそれなりの長さを持っていることが多いため、提示部・展開部・再現部に終結部が独立して加わっている、と見る場合が多いのです。

たとえば、RPGなどでは、敵を倒して平和が訪れてさあ終わりとなることは少なく、最後にヒロインと結ばれて幸せに暮らすことで、すっきりした終わりを迎えることができます。

同様に、ソナタ形式でもコーダがあることにより、提示部から再現部までの長い物語が歯切れよく終わるのです。

ソナタ形式という型を意識して音楽の物語を楽しんでみよう

ここまでで確認してきたように、ソナタ形式は、「提示部」「展開部」「再現部」という三部構成に「コーダ」が加わった楽曲の「型」であり、「三部形式」と「調性の変化」によって音楽にストーリーを生み出すものです。

そして、「ソナタ」という名前を冠していなくても、ソナタ形式は様々なところで使用されています。

実は、ソナタ形式から成る楽曲は、楽器編成によってその呼称が異なるのです。ソナタ形式に基づく曲の楽器編成ごとの一般的な呼称は、以下の通りです。

ソナタ:独奏楽器(旋律楽器+ピアノ伴奏も含む)
交響曲:管弦楽
弦楽四重奏:ヴァイオリン2本+ヴィオラ+チェロ
協奏曲:単独楽器+管弦楽

きっと、どの楽曲形式も、音楽に関心のある方なら一度は耳にしたことがあるのではないのでしょうか。

このように、ソナタ形式は、西洋音楽の中でも実に多様なシーンで取り入れられている型なのです。

つまり、ソナタ形式を理解することは、クラシック音楽を理解することにつながると言っても、過言ではありません

本記事でご紹介した、ソナタ形式の形式や意義などに目を向けながら、ソナタや協奏曲、交響曲などをぜひ聴いてみてください。

きっと、楽曲の展開や変化にも目が行くようになり、クラシック音楽をより楽しめるようになると思いますよ。

以下のリンクは、ベートーヴェンの「運命」にソナタ形式の視点から解説が加わったものですが、比較的わかりやすいです。時間も7分ちょっとと長くはないので、お時間がある方はぜひ一度、「ソナタ形式」という観点から楽曲を楽しんでみてください♪


( https://www.youtube.com/watch?v=T-iCKOEQhlA )