ソナタ形式各論

ソナタ形式の定義と例外│ソナタ形式がわかりにくい理由

ソナタ形式の定義と例外イメージ画像

ソナタ形式の一般的な定義と、基本的なソナタ形式の定義に当てはまらない様々な形が存在する理由を考察します!

ソナタ形式を調べていると人によって様々な定義がなされています。

個別の楽曲を調べても、定義に当てはまらない部分がたくさん見つかります。

今回は、ソナタ形式を定義することの限界と、ソナタ形式の例外をどうとらえるべきかについて考察していきます。

ソナタ形式の定義を比較してみる

まずは、いくつかの専門書の説明を見ながら、ソナタ形式の定義を比較してみましょう。

ここでは、3つの楽式の専門書から、ソナタ形式の基本的な形に関する部分を紹介します。

ウイーン古典派のソナタ形式の典型的構造を大きく俯瞰すれば、ほぼ次のように略記することができます。これは一般的なもので、個々の楽曲では相違する面があることと思います

基本のソナタ形式の画像なお、比較的大規模なソナタ形式の楽曲には、提示部の冒頭に序奏あるいは序奏部を置くことがしばしばあり、また再現部の終末が拡大され、終結群あるいは終結部となって独立することもあります。
――貴島 清彦「音楽の形式と分析」p.180より抜粋

新しい古典派のソナタ形式 ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンの近世のソナタ形式は、ほぼ次の骨子をもっている。

第1部分 諸主題の提示
主調の第1主題、属調への導入、属調の第2主題、即ち副楽節、第3主題、即ち属調の終結主題(Schlussthema)。

第2部分 展開部
第1部分の諸主題から任意に選ばれた動機に基く自由な幻想曲的部分。第1部分よりもずっと広範囲の転調、最後に主調、主題への復帰。

第3部分 再現部
第1部分全体の繰り返し、しかし今度は第2と第3主題は属調ではなく主調にある。コーダはしばしばベートーヴェンの割合に大きい作品におけるように嵩張ったものいなれば、

第4部分
――ともいえるものとなる。第4部分は時に第2の展開部をなし、第2部分に相応することがある。その時は第1と第3部分、第2と第4部分が対になる。

この基本の型は極く一般的なものである。個々のソナタは細かい点で多くは大いに違っている。ソナタ形式は重要であるから個々の要素を詳細に研究することが必要である。
――ライヒテントリット「音楽の形式」p. 105~106より抜粋。

ソナータ形式は、大體、三つの部分から出来ている。

一、呈示部(獨、Exposition, 英、Exposition)――二つの主題その他を提示する部分。

二、展開部(獨、durchführung, 英、Development)——主題その他を展開する部分。自由幻想部とも發展部ともいうことがあるが、それはあまり適當な名稱ではない。この部分は、作曲者の幻想を可成り自由に動かせるが、幻想だけによるものではない。また、主題を發展させるのではなくて、その中に凝結してゐる樂想を展開することを主眼としているのである。

三、再示部(佛、Reprise, 獨、Reprise, 英、Reprise, Recapitulation)——呈示部に出たものを再示するとおと。再現部ともいうが、呈示部に對していうのであるから、再示部という方がいゝ。反覆部という人もあるが、たゞ繰り返すのではなくて、前に出たものを多少變えてもう一度示すところであるから、反覆部というのは、あまり當つていない。

――中略――

ソナータ形式にも、その前に序がつき、その後に結尾が添えられることが少なくない。
――門馬 直衛「音楽形式」p. 137~138より抜粋

以上を踏まえると、ソナタ形式は、提示部・展開部・再現部(・終結部)からの3つ(あるいは4つ)の部分から成り、それぞれの部分で主題や調が変化する音楽の形式であると言えるでしょう。

ソナタ形式の定義は後づけでソナタに見られる共通の型を抜き出したもの

ところで、ソナタ形式を調べていると、曲によってはコーダがあったりなかったり、主題・モチーフがが1つしか登場しなかったり、再現部がなかったりと、基本の形に当てはまらない楽曲がたくさん見つかります。

そもそも、ソナタ形式の型の定義も、人によって様々で、文献などで調べても1つひとつ微妙に内容が違ったりします。

上で紹介したソナタ形式の基本の形の説明での中の赤字の部分にも表れているように、ソナタ形式は楽曲によって様相が異なることに言及されるのがなかば当然になってさえいます。

なぜこのようなことが起こるのでしょうか?

その理由は、ソナタ形式が後付けで理論化されたものだからです。

ソナタ形式は、作曲家たちが生み出してきた数多のソナタを分析し、そこに共通点を見出すことで定義づけがなされてきたのです。

この点について、ノース・カロライナ大学の教授であり音楽学の専門家であるマーク・エヴァン・ボンズは「ソナタ形式の修辞学」の中で、以下のように述べている。

十八世紀にはソナタ形式の正式な定義はなかったので、学者たちが形式の本質的な特徴――すなわち形式のすべての現われに共通する特徴――をつきとめるのに相当な注意を向けてきたのも、もっともなことだった。実際、こうして形式を定義する要素を追求することは、アリストテレス自身がほかならぬ「形相eidos」そのものの概念を「各々の事物の本質」と定義したことを反映している。
――「ソナタ形式の修辞学」p. 50より抜粋。



ソナタ形式の修辞学 古典派の音楽形式論 [ マーク・エヴァン・ボンズ ]

しかしながら、100年以上の歴史のあるソナタの全てに当てはまるようルールや法則を見出すことは、不可能に近い作業です。

名作と呼ばれるような文章でも、すべて同じ構成で書かれているわけではないですよね?

音楽も同じで、あくまでも良い音楽を生み出そうと試行錯誤した結果、作曲家が似たような構成で作曲するようになったに過ぎないのです。

しかも、ソナタには長い歴史があるため、時間が経つにつれてその形が少しずつ変化していくのはごく自然なことでもあります。

つまり、ソナタ形式は、音楽の歴史の中で作曲家たちが器楽曲の理想の形を追求した結果として見られるようになった共通の型であり、全ての楽曲に当てはまるものではない、ということです。

そのため、ソナタ形式=100%この形である!と定義してしまうことは、楽曲を解釈する際に悪影響である可能性もあるのです。

この点についても、マーク・エヴァン・ボンズが「ソナタ形式の修辞学」の中で、ソナタ形式を定義することの限界について言及しています。

ソナタ形式の場合、事実上、形式を定義する要素を探求することが、十八世紀の形式概念の正確な再構築を妨げてきた。ソナタ形式を定義する必要があることは明らかである。しかし、この目的を追求する過程で心に留めておかなければならないのは、定義はその性質上、役割に限界があるということである。ソナタ形式のあらゆる現れ方に共通の要素をつきとめても、きわめて重要ではあるがたまたま形式定義的でない特徴を考慮に入れるのに、そのことが適切な枠組みを提供するわけではないのである。
――「ソナタ形式の修辞学」p. 50より抜粋。

これはつまり、ソナタ形式を定義することは意義あることではありますが、定義してしまうことで、定義に当てはまらない楽曲が持つ特徴に対する考察をかえって狭めてしまう可能性がある、ということです。

ソナタ形式の定義・共通のルールを踏まえて楽曲の個別的特徴に目を向けよう

もちろん、ソナタ形式を定義すること自体は、非常に意義深いことではあります。

しかしながら、楽曲など何らかの対象を考察する際には、定義が例外的な次章への考察を狭めてしまう可能性があることを、私たちは心の片隅にとどめておく必要があるでしょう。

この点について、ライヒテントリットは個々の楽曲におけるソナタ形式の個別的特徴に目を向けることの重要性に言及している。

新しい古典派のソナタ形式 ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンの近世のソナタ形式は、ほぼ次の骨子をもっている。

――中略――

この基本の型は極く一般的なものである。個々のソナタは細かい点で多くは大いに違っている。ソナタ形式は重要であるから個々の要素を詳細に研究することが必要である。
――ライヒテントリット「音楽の形式」p. 105~106より抜粋。

これはすなわち、ソナタ形式はあくまでも数多のソナタに見られる共通の型を抽出したものを定義したものに過ぎないと言うことを念頭に置いたうえで、個々の楽曲が持つ個性的特徴に注目して分析したり演奏したりすることが大切であるということです。

以上の議論を踏まえたうえで、これからソナタと向き合っていく際には、ソナタ形式の定義や共通の特徴を踏まえた上で、作曲家が生み出したそれぞれの楽曲の個性についてもぜひ思いをめぐらせてみてください!

なお、ソナタ形式の全体的な意味や意義に関しては、こちらの記事をあわせてご参照ください。

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参考文献
  • 貴島 清彦「音楽の形式と分析」(音楽之友社)1980.
  • フーゴ―・ライヒテントリット 著、橋本 清司 訳「音楽の形式」(音楽之友社)1955年.
  • マーク・エヴァン・ボンズ 著、土田 英三郎 訳「ソナタ形式の修辞学」(音楽之友社)2018年.
  • 門馬 直衛「音楽形式」(音楽之友社)1949年.

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